あるお店で見つけたTシャツを気に入り、レジに並んだ。
担当してくれたのは物腰の柔らかい綺麗なおばちゃんで、あまりにも真っ直ぐ目を見つめてきてくださるので少し照れながらお金を出した。
たまたま小銭がなかったので一万円を出すと、「小さいお金はよろしいですか?」なんて優しい声で聞いてくれる方で、僕はまた少し照れながら「大丈夫です」と答えた。
そして、おつりの時間がやってきた
「まずは大きい方から。8000円です」
「ありがとうございます。」
「細かいおつりが618円に…
なり…
なりま…
なります。」
この時一瞬スローに感じ、僕は右の手のひらを上に向けたまま数秒間立ち尽くしていた。
手のひらに618円はない。
レジのおばちゃんがすごいスピードでお会計のトレーに618円とレシートを(ジャン!)と置いたのである。
「なりま…」
くらいでもうトレーの上にあったと記憶している。
さっきまで優しくてとても丁寧だったのが幻想に思えて唖然としてしまっていると、また優しい声と雰囲気に戻り「ご確認くださーい。」と真っ直ぐな瞳で仰られた。
突然の落差にびっくりしたのと、なんか怖いのとが入り混ざり冷や汗が止まらなかった。
しかし、重要なのは、
これは文句を言いたいとかではないということです。
誰も悪くはないのです。
マニュアルかなにかなのでしょうか?
その方が小銭を数えやすいのもわかります。
でも、教えてほしいことが一つあります。
僕がすでに前へ出したこの手はどうしたら自然になるのでしょうか?
【おつりがワープした時の素敵な振る舞い方】
というマニュアル本があるのなら、禁止事項としてでかでかと一番最初に挙げられているパターンを僕はやらかしてしまったに違いないのです。
(※禁止事項その1)
たとえ恥ずかしくても、赤ダルマのような顔色になり俯いたまま小走りをしない。