「〇〇は腰パンしてなかったらなぁ」
高校生の頃クラスメイトの女子にそう言われていたらしい。
相棒よ、
そんなことはわざわざ教えてくれなくてもいいんだよ。
意識して腰パンをしていたわけではないが、
そう見えたのなら弁解の余地はないし、元来釈明できるコミュニケーション能力を内蔵していなかった。
さて。
腰パンしていなかったら何だったと言うのでしょうかね。
腰パンしていなかったら、
もっと上手に走れると思わへん?
腰パンしていなかったら、
顔もシュッとするやろうに。
腰パンしていなかったら、
ワタシの連絡先教えてあげるのに
腰パンしていなかったら
腰パンしていなかったら
腰パンしていなかったら…
実際は何を言われていたのか知らないが、
その悪意のフレグランスが付着した一報を聞いてから確実にビクビクしながら毎日が迫り来た。
知らぬ間に誰か見られているかもという畏怖の念。
腰パンしすぎていないだろうか?
さっきの俺の行動気持ち悪くなかったか?
今笑いすぎてないか、俺。
と自分を客観視し続ける累次の最中、複数の視線を感じた。
休み時間。
男友達とハシャギ、哄笑する僕を見つけたあの噂の女子4人組が批難の視線を飛ばして、ねめつけてきていた。
まさにレーザーだった。
イチローより鋭いレーザービーム。
そのレーザーは僕の顔を焼き付け文字を刻んでいった。
「普、段、陰、気、な、く、せ、に」
「な、ん、か、き、も、ち、わ、る」
僕は端から笑っていないフリをするという明瞭な不自然さを自然にみせようと
目は笑ったままにし、ゆっくり緩やかに口を閉じてトイレへ逃げ込んだ
顔中が痛くて、神経という神経が剥き出しになった感覚に襲われていた。
だが、トイレの鏡にはいつもの冴えない顔面が
ただただ、ここにあるだけだった。
自分の顔をみて安堵したことが、可笑しかった。
何事もなかったように下校したその日の夜、偶然聴いたラジオ。
木村カエラが発した言葉たちが僕の鼓膜を震わせ、呼吸するみたいに気取らない涙がでてきてしまった。
「腰パン?めっちゃ好きなんだけど、フェチと言ってもいいくらい好き!」
僕は木村カエラと結婚しようと思った。
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