電車にて
斜め前に座っている
おそらく十代のカップル
彼氏が彼女の耳元でコソコソ話をすると、
彼女がケラケラと笑いだす
耳にスイッチでもあるのだろうか
なんどもなんども繰り返す
彼女の笑いはその度に倍々していく
ついにゲラゲラになったが
彼女は笑う姿を見られるのが恥ずかしいらしく
震えながらずっと下を向いている
今回は彼女の笑いが止まらないので
彼氏のコソコソが入り込む余地がない
すでに彼女はゲラゲラを通り越して発作的な笑いに取り憑かれているようで心配になってきた
その時彼氏がやっと
僕にも聞こえるように声を発した。
「いつまで笑うねん」
ごもっともだ、ほんとに
でも、笑いの原因はたぶん君
僕はカップルに耳を傾けつつ、
目の前をすばしっこく流れる家たちを眺めていた
それから何分たっただろうか
そういえば笑いの音がなくなっていることに気がついた。
彼女は笑いのクライマックスを迎え、疲れたのか
彼氏の肩でお眠りになっていた
その姿をみていると
彼氏がもたれかかられた方の腕をひろげ、
抱き包むように、彼女の肩に手をやった
「俺がコイツを守る」と言わんばかりに。
なにをみせられてんねん、
と言ってしまいそうになったけど
僕が勝手に見ていただけだったんだ