去年の今頃、ある公園の駐輪場で見知らぬおじいちゃんにこう話し掛けられた。
「おぃちゃんを愛してくれよ」
おぃちゃんとは多分自分のことだろう
夕暮れ時、昼間の暑さを運んでいってくれる心地の良い風とセンチメンタルな色彩を魅せる空とが、どこか寂しげなおじいちゃんになんとも言えない調和をもたらしていた。
おじいちゃんが手に持っているスーパーの袋には500mlの酎ハイと惣菜。
もうすでに酔っ払っている足取りだった
それだけで僕の思考はぐるぐるぐるぐると止まらなかった。
このおじいちゃんには大切な家族がいる。長年寄り添い一緒に暮らすおばあちゃん。朝食には必ずお味噌汁がでてくる、そんなあたたかな空気感を共有している二人。
そして2人の息子。数年前弟家族に女の子が産まれ、初孫ではないが初めて女の子と接することになったおじいちゃん。
弟家族は近所に住んでいて、毎週日曜日になると3歳になった娘を連れて家にやって来るのである。
おじいちゃんは毎週日曜日に合わせて、スーパーでプリンアラモードを買ってくる。
そして、自分の膝に座り一生懸命にプリンアラモードを食べる孫娘をみては、一週間が過ぎ行くことを感じ、こう思うのだ。
「私は幸せだ。これ以上の生活を望むことはバチがあたるだろう。だけれども、私はこれ以上誰かに求められたり、激しい情動につき動かされたりすることはないのだろうか。もう」
と。
僕がおじいちゃんに出会ったのは日曜日。
この日は、この週は、孫娘が来なかったのだ。
久しぶりで、なにか落ち着かない。
そわそわそわそわと家の中を右往左往しているうちに、居ても立っても居られなくなり飛び出した。
しかし、向かう場所など思いつかずとりあえず行き慣れたスーパーに向かうと殆どなにも考えず、お酒と惣菜をカゴに入れている自分がいた。
あまり強くはないのに、お酒をのみ。
綺麗な景色に触れた。
それだけで誰にも言えない言葉が口をついてでたのかもしれない。
「おぃちゃんをあいしてくれよ」
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