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Story

なくしもの。

 
先日。己を落としました
 
 
どこを探しても見つかりません
 
 
いつからなのかも覚えていません
 
 
そろそろ、途方に暮れそうです、とほほ
 
 
 
僕は、出来るだけ歩こうと思いました
 
 
そうすることで何かが見つかると思ったのです
 
 
 
いろんな場所に行きました
 
 
 
通院中の歯医者。あらゆるコンビニ。老舗文具店。ファミレス。母校。ケーキ屋。お墓。ドラッグストア。高速道路の高架下。少し緊張する美容室。野良猫だらけの駐車場。近所で有名な事故物件。無理やり切られた大木の上。駅のトイレ。つぶれた駄菓子屋。幽霊が出ると噂のトンネル。好きなコに嘘をついた河川敷。
 
 
 
とほほ。
 
 
辿り着いた家電量販店の50型テレビの真っ黒の画面に僕は反射しませんでした
 
 
 
自動ドアも反応しないので隣の自動ではないドアをそっと押しました
 
 
そのタイミングで視界に入った重厚感満載で身の預けたくなるマッサージチェアが
とても気持ち良さそうで
 
 
これを家電が発する何かのメッセージだと思い、一度店から出てもう一度自動ドアからの入店を試みましたがやっぱりダメでした
 
 
勘違いでした
 
 
マッサージチェアで寛いでる所に気付かれず、上からのしかかられたりしたら気持ちが耐えられないので二度目の入店はやめておきました
 
 
 
とほほ。
 
 
 
そろそろ足が痛いです。
股関節、太もも、ふくらはぎ、足の裏表、全部。
 
どこまでが足なのでしょうか
 
 
足が痛い事に気付いてしまったので、もう休むしかないと思うのです
 
 
ダメージは数字として目の前に現れ、物凄いスピードで減っていっています
 
 
徐々に歩き方が変になり、スニーカーはぼろぼろになり、足の指は剥き出しになり、爪が剥がれ、泣きだした僕を救った昼下がりの公園。
 
 
 
三人は座れるであろう背もたれ付きのベンチに寝そべり、痛みとは違う理由でまたまた泣きました
 
 
 
何時間泣いたでしょう
 
シトシトと僕の周辺に水たまりができているに違いないというくらいは泣きました
 
 
幼子のはしゃぐ声とお母さん達の世間話が消え、ボール遊びをする子供の声が消え、恋人達の甘いささやきが消えた頃
 
 
僕は再び起き上がる事にしました
 
 
おそらくパンパンだろう目元を確認する術がない事実に新たな涙を流しそうになった時、自分が作った水たまりにうつる自分の姿を見つけました
 
 
ほほ。
 
 
僕は嬉しくて嬉しくて何時間も眺めていました
 
 
 
 
そのうちなんとか心が落ち着きを取り戻したのですが、
 
ある女性の顔がその水たまりにうつり込んだので、僕はあまりにもびっくりして尻餅をつくことに
 
 
いて
 
しかし辺りを見回しても、その女性はどこにもいない
 
 
20代前半くらいだろうか
今時の容姿をした可愛げのある女性にみえた
 
 
目が腫れているせいで見間違いでもしたのかともう一度水たまりを見ると、やはりいるのだ
 
 
それもこちらをみて何か話をしている。
僕は、この気味の悪さを無視できる状況にいないので、近寄り、声を聞いてみる事にしました
 
 
 
「あのぉ、」
 
 
「こんばんは」
「あららら」
「目、もとからそれですか?」
 
 
「違いますけど」
「そうだった場合あなた凄く失礼になりますよ」
「まぁでも、この腫れがひかなかったら…」
 
 
「大丈夫ですよ」
 
 
「なにを根拠に…」
「そもそも、誰も僕には気付かないからミテクレなんかどーだっていいんです。もう」
 
 
「嘘ばっかり」
「あなたは気付こうとしませんでしたけど、昼間お母さんと砂場で遊んでいた女の子はあなたのこと見てましたよ。」
 
 
「そんなのたまたまだよ。自分の姿すら確認できなかったんだから、ついさっきまで。」
 
 
「信じないなら別にかまいません。」
「私は事実を伝えたまでですし」
 
 
「あぁ、すいません」
「あなたはどこかこう…不思議な雰囲気をおもちです」
「どこか母親に似ているような、。さらに言えば昔の恋人にも似ていますし、憧れの芸能人にも似ています」
 
 
「それは褒め言葉ですか?」
 
 
「ええ、たぶん。」
「肩につくかつかないかの所でハネた髪型、お似合いだと思います」
「あぁ、僕は突然何を言っているのだか…」
 
 
「ミスを褒めていただけたのは初めてです。」
「あまり気に入ってなかったんですよね。」
 
 
「なるほど。今その言葉を僕に言うあなたは、少しいけずですよ」
「でもそんなあなたが羨ましい」
 
 
「私もあなたが羨ましいです」
 
 
「それも、あなたの手法ですか?」
 
 
「はて。」
「あなたが言っている羨ましさと同じです」
 
 
「無知ということですかね」
 
 
「ひとことで言えばそうなりますね」
「今日の月だって。」
「なあんにも知らないそぶり。もうご覧に?」
「そうやって見上げてもありませんよ、この水たまりにうつる月のことです。」
 
 
「あぁ。僕とあなたの間でえらく光っている」
「こんなにも」
「でもなぜ、本物は見えないのでしょうか?」
 
 
「それはあなたが見ようとしていないからです。」
 
 
「またまた」
 
 
「あなたは綺麗な満月に出会える機会は、平等に与えられていると思いますか?」
 
 
「まったくもって、思いません」
 
 
「私も思いません」
 
 
「じゃあ、あなたが想う人とみる綺麗な月の価値はその回数に変えられますか?」
 
 
「無理です。」
 
 
「やっぱり。だから大丈夫なんです。」
「忘れているだけですから。」
 
 
「はぁ…」
 
 
「全てちゃんとみえる日が来ますから」
「あの月もあなたも」
「だから、朝になるまで。この水たまりが消えてしまうまで、誰にも言えない悪口でも言いあいませんか?」
 
 
 
 
「はい。」
「なんとか信じてみます。」
 
 
 
「はい。」
「そうだ。髪型のこと。」
「ほんとは嬉しかったです」
 
 
 
「あなたはどこまでもずるい人です」