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Story

凱旋ライブ。

 
あの人が凱旋ライブをするという。
 
 
昨晩テレビの中でギターをかき鳴らす姿を何の気なしにみていたところだった
 
昨日の今日、
 
彼女の地元であり僕の地元にくるという。
それだけで胸がざわざわ五月蝿いのは、彼女が同い年だからだろうか
 
 
僕は、誰に見られるわけでも咎められるわけでもないのに隠れて見に行くことに努めた。
スポットライトがあたるのは彼女だけ。
 
 
心の中にある沸々とした原動力をそーっと両手で包みながら、溢れ落ちないようにカラダは進む。
 
突然僕を殴りつけ自転車のチェーンを引きちぎってくれる奴は現れないかと
少しだけ願ったが、日本はいい国。安全かつ迅速に目的地に着いた。
信号には一度もひっかからなかった、と思う
 
カラダを駐輪場に移してもなお、その願望を捨てきれていない自分は
汚さを全うしていた。
 
 
当然ながら人で溢れかえるステージ。
本当に彼女がいた。
その足で逞しく立っていた。
 
そんな彼女を見る観客の照った眼差しは焦点が合うことなく僕を責め続けた。
 
“たまたま通りかかっただけなんだ”
という様相を崩せない自分から汚いにおいがした気がして
パーカーに鼻を近づけてみたが柔軟剤と外の匂いが混ざっているだけだった
 
 
ギターを抱えトークをする華奢な彼女
 
昨晩とは違うギターを持っていることに少し不安になり
昨晩のギターを覚えている自分がなぜか痛々しかった。
 
彼女は地元に帰って来られたことがどれだけ嬉しいかを話していた。
この間もスポットライトは彼女だけに当たり続ける。
 
 
人を挟んで彼女がいて
人を挟んで僕がいて
その点では同じだったが、嬉しいことなど何もない。
 
この数メートルには全てが詰まっているように思えた。
 
くすぶり続ける自分
友達がいない自分
お金のない自分
家族には長生きしてほしいと思う自分
ここにきた自分
 
 
 
僕は歌を聴かず、地元を踏みしめ地元に戻ることにした。
 
 
 
帰路の道中、コンビニで吸えないタバコを買い
自転車をかき鳴らすようにおもいっきり漕いで帰った。
 
カシャーン、カシャーン、カシャーン
 
 
そして、念のためにと持ってきた耳栓をポケットから取り出し
 
 
「チェーンなんかいらんのじゃあぁぁ」
 
 
と自分には聞こえないように、一度だけ自由に叫んだ。
 
 
 
彼女が今日地元でつけると決めた口紅は
僕が履いているスニーカーの色とそっくりだった
 
 
 

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