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Story

嫌い、すき、ウナギとか、飴とか。

うなぎの蒲焼きにはな
 
 
骨あるーゆうてんのに、ないーゆうてくんねや
 
 
痛いーゆうてんのに、そんなん気にならんいいよんねや
 
 
わしにはな。
これは一種の試練に近いものがあるんや。
 
まず第一関門は口の中や
 
咀嚼中に舌やら歯茎やらをチクチクチクチク攻撃してきよる
 
 
味覚を痛覚に邪魔されるわけやな
 
 
歯と歯の間がチックリくることもあるんやで?
 
 
んなもん、かなわんわぁ
 
 
泣きながら食べるのは、至極の一品に出会った時か感動の場面で食べる味のない料理で十分なんや。
 
充分。
 
 
 
そしてな。第二関門はな
 
 
言うまでもないけどな、
 
 
喉や。
 
痛みを我慢してやで、んでまた我慢してやで。
 
草食動物かのごとく、奥歯で出来るだけすり潰すわな。
 
そうせんと手の届かん喉が悲鳴をあげることになるかもしれへんさかいな。
 
 
だからな。
可愛い可愛い喉のことを気遣ってペースト状にまでに仕上げた鰻をやっとの思いでゴックンや。
 
 
ところがどっこい
 
 
そこまでしてもやで?
 
 
チクリとくる時があるいうのが、鰻の生命力ちゅうか、最後の意地っちゅうか
 
もう冷や汗たらーで
ご飯粒ごっくんやで、、ほんま。
 
 
喉の現状確認のため、噛まずに飲み込まれた米粒がかわいそうでかわいそうでなぁ。
 
 
箸を持つ手がピタ〜ととまってしまうんよ
 
 
そしたらな、
隣でうまいうまい言いながら何かに取り憑かれたように鰻をほうばる愛鰻者がこう言うんや
 
 
「こんなうまいもん食べられへんなんて、人生の9割は損してるで、あんた。」
 
 
でもな。わしも負けてへん
 
こう返したったんや
 
「人生の9割が鰻で出来てる方が人生損してるわぼけぇ。」
 
ってな。
 
 
んならやな。
 
「それもそうやな。」
 
 
言うてゲラゲラ笑いながら鰻を頬張る手を止めへんかったんな。
 
 
それをみて、わし
鰻を通じて全てを否定された気がしてな。そのことに寒気がしてな、お金と食べかけの鰻をその場に置いて店飛び出したんや。
 
 
 
 
あれから、七年。
 
わしはある本屋で雑誌を立ち読みしてた
 
 
そしたらな。わしの目の前におる女性がな。
料理の雑誌読んでてな。
ボソッとな。
こう言うたんを聞いてしもたんよ。
 
 
 
「鰻って骨あるから嫌い。」
 
 
なんやろなぁ。
 
その時不意にな。心がポワッとなったんよ、
 
この女性とならな。あの店また行ってもええなぁとか思うてなぁ。
なんでそんなこと思ったんやろなぁ。
 
 
 
でも、名前すら知らへん他人やし、その隣には彼氏か旦那かわからんけど、そんな類の男がいて手を重ねてたりするんよ。
 
 
それを見てな
 
どうしたもんかなぁ
 
って無意識の内に小声で言うてしもてなぁ
 
口に含んでたグレープ味の飴玉がコロンって鳴ってしもうたんや。
 
 
その音に気付いた2人がわしの顔を少し驚いた表情でまじまじと見つめてきたんよ
 
 
わしは顔が焼かれたみたいにあつーなってきてな、店を飛び出す事しかできひんかった。
 
 
 
 
それで、おしまいよ
 
 
 
 
その日の夜は
初めて独りを恥じたなあ
 
 

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