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Story

思慕

 
 
雨がふる
 
山肌にも涕涙
 
流され運ばれ変ずるもの
 
あなたが結わえようとした髪のゴムが伸び切って弾んだ
 
手の甲に痛み
 
少々のミミズ腫れ
 
活字アレルギーだと言い、目頭を押さえていた彼女が武者小路実篤の『愛と死』を一文字一文字追い始めるコンニチ。
 
彼女はコーヒーアレルギーでもあると言った
 
「全身がにっがにっがになる。」と真剣にふざけていた。
 
彼女は今、僕の隣でコーヒーを啜りながら本を読んでいる。
 
夏のアスファルトで干からびたようなミミズを左手の甲に飼い始め
 
コーヒーの湯気から湿気を貰ってはミミズが膨張し始める
 
息を吹き返すみたい
 
切れたゴムはこれまたミミズのよう、だらんと佇む机の上。
 
栞にでもなるかもね
 
そうだね。
 
お互い心の声で会話する
 
現在、髪の毛の拠り所は耳の裏。
 
 
後で買いにいこう
それだけのため、外へ繰り出す一日にしよう
 
あなた好みで実用性のあるゴム。
 
一つの傘。
分け合うよう取り合うように歩いたらすぐ着くよあのお店。
 
 
 

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