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Story

 
 
公園の駐輪場で見知らぬおじいちゃんに話し掛けられた。
 
「おぃちゃんをあいしてくれよ」
 
おぃちゃんとは多分自分のことだろう
 
夕暮れ時、昼間の暑さを連れ去る心地の良い風。
頭上にはセンチメンタルな色彩を魅せる空。
 
おぃちゃんの哀愁と場景にはなんとも言えない調和があった。
 
おぃちゃんの手には500mlのビールと惣菜。
 
すでに酔っ払っている足取りである。
 
それだけで僕の思考はぐるぐるぐるぐる活動を始めた。
 
 
おぃちゃんには大切な家族。
長年一緒に暮らす妻は、毎朝必ずお味噌汁を作ってくれる。
ふたりで過ごす朝の時間は、一日の始まりには欠かせない。
 
息子が3人。
 
4年前、次男夫婦に女の子が産まれた。
初孫ではないが、初めての女の子に誰もが夢中になった。
 
毎日が新鮮で楽しかった。
 
次男家族は近所に居を構え、
毎週日曜日になると娘を連れて家に来てくれるのだ。
 
おぃちゃんは毎週日曜日に合わせ、スーパーでプリンアラモードを。
 
自分の膝に座り
一生懸命プリンアラモードを頬張る孫娘を見ては、
一週間が過ぎゆくことを想う。
 
 
本当に幸せだった。
 
 
しかしその生活が数か月続くと、不意にこんなことを考えるようになった。
 
「私は恵まれている。異なった生活を望むことはバチがあたるだろう。けれども、私はこれ以上誰かに求められたり、激しい情動につき動かされることも許されないのだろうか。」
 
と。
 
僕がおぃちゃんに出会ったのは日曜日。
 
この日は、孫娘が熱を出し、来なかったのだ。
 
静かな日曜は久々で、落ち着かない。
 
おぃちゃんはひとり外へ飛び出すと、
いつか見つけた、ゆうひが綺麗に見える場所を目指した。
 
途中で寄り道をした。
 
ビールと小さな惣菜を3つカゴに。
 
いつものレジのお姉ちゃんがキラキラまぶしいのは何故か。
 
プリンアラモードのことは聞いてこなかった。
 
それでよかった。
 
店を出るとすぐにプルタブを引き上げ、
全てを染め始めた真っ赤な路地を歩いた。
 
それだけで誰にも言えない言葉が口をついてでたのかもしれない。
 
 
「おぃちゃんをあいしてくれよ」
 
 
 

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