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Story

時刻

 
 
6時10分。
2度目のアラームで起きた。
結局睡眠薬は効かず、青白くなりはじめた天井を覚えている。
 
 
6時37分。
猫のちょびが髪の毛を引っ張り、ご飯を催促するので目を覚ました。
 
 
6時53分。
また、ワイシャツのアイロンがけを忘れている。
テレビではコービーブライアントがヘリコプター事故で死んだというニュース。
 
 
7時13分。
歯を磨きながらマグカップに入れた牛乳を電子レンジで温める。
スティックのカフェオレをその牛乳に入れ、リビングに白檀のお香を用意するとちょびが寝室へ逃げていった。
 
 
7時22分。
バス停でバスを待つ。
少し黄ばんだシワシワのシャツと密接な関係を築くことができる朝だ。
灰色のマフラーがあたたかい。
 
 
7時24分。
リビングでパソコンをつけ、仕事の更新事項をチェックする。
ネットニュースで、有名なスポーツ選手が亡くなったと流れている。
女子力が高いコは朝白湯を飲むと昨日知った。
 
 
8時10分。
仕事場、最寄りのバス停に着いた。
ここから少し歩かなければならない。
ブレザーを着た学生が自転車で僕を抜かしてゆく。
 
 
8時11分。
彼氏から電話がかかってきた。
 
「俺、昨日ネクタイ忘れてない?」
 
「え?どこ?」
 
「わかんない。ちょと探してくんない? 急ぎで。」
 
「なんで覚えてないの、どこよ…」
 
「やべぇ、遅れる」
 
「別に今日は他のでいいじゃん」
 
「会議はあれってきめてんの」
 
「…、あー、あったあった!
勝手に洗濯機入れるのやめてくんない?」
 
「それ持ってきて!職場の住所送るから!よろっ!」
 
はぁ…。
 
 
8時15分。
近所の高校がみえた。会社まであともう少し。
「吹奏楽部 金賞」の横断幕を少し触ってみた。
冷たく、薄く、柔らかい。
 
 
8時16分。
車で20分か…。9時ギリだな。
メイクしてないし…
このお返しは高くつくぞと、コートをきて車に飛び乗る。
 
 
8時20分。
コンビニに入り、朝食を選ぶ。
今日はあのお姉さんがいない。
ならば健康志向だと思われなくてもよい。
 
豚カツサンド、ツナマヨのおにぎり、コーラを買った。
 
 
8時31分
思いの外スムーズに目的地へ。
パーキングを見つけて車をとめる。
 
私と彼は3か月前すぐ側のコンビニで出会った。
 
仕事を掛け持ちしていた私は先週そのコンビニを辞め、イラストレーターの仕事のみで頑張ってみることにした。
 
 
8時32分。
会社までの最後の横断歩道。
青になり歩き始めると後ろから名前を呼ばれた。
 
いつもと雰囲気が違うが、その女性が誰かすぐにわかった。
今日いなかったはずのコンビニのお姉さん。
でもなぜ、僕の名前を知っているのだ…
 
 
8時32分。
横断歩道の向こうに彼を見つけた。
 
「ハジメ!」
 
すっぴんなのに大きな声を出してしまい、自分で笑う。
 
 
8時33分。
振り返ったまま固まる僕の後ろから、誰かが小走りで視界に入ってきては遠ざかる。
 
僕より体が大きく髪の毛は短かった。
 
僕は半透明のビニール袋から見える、コーラを隠していた。
 
 
8時33分。
あまりにも大きな声で呼んだため、おじさんが一人私の方を見ている。
 
最近物騒な事件が多いし、怒鳴られたりしたらどうしよう。
 
私ではなくハジメが横断歩道を渡ってきてくれたことが救いだった。
 
 
8時33分。
すぐに状況を理解するには難しい朝で。
 
理解できた時には、信号が点滅していた。
 
僕はこの数十秒、
どの角度からも介入できない恋物語の通行人Cを演じ続けていたみたいだ。
 
 
8時34分。
「おっ!助かった〜。」
 
「会社。こんなに近かったんだね。」
 
「うん。そろそろ一緒に住む?」
 
「ん?わけわかんない朝なんだけど(笑」
 
「すっぴんじゃん、誰かわからなかった」
 
「おい!ネクタイ返せ!」
 
「ごめんごめん。(笑
ま、考えといて! さっきの人知り合い?」
 
「さっきの…? まったく。」
 
 
8時35分。
感情を捨て、慌てて向こう側へ走った。
 
マフラーが暑い
 
 
 
 
 

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