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Story

晴雨

 
今日もまだまだ寒い。
 
 
ぴーかんに晴れた日は「外に出ないともったいないよ。」と言ってくる彼女。
 
 
「晴れていても寒い。」と
返すと、公園ではしゃぐ子供の動画を送りつけてきた。
 
「なにこれ?」
 
「昼休憩で通りかかった公園。初心にかえりなさい!」
 
 
既読無視、既読無視。
 
 
 
彼女は僕の分まで働いている。
 
この携帯も彼女から渡されたものだが、
スマホゲームで容量ぱんぱんのうえ、たまに課金をしてしまう。
 
 
それでも、彼女はなにも言ってこない。
 
 
彼女は格安携帯会社の一番安いプランに入って、ゲームはせず僕とばかり連絡をとる。
 
 
僕が転がり込んだこの家に帰ってくれば話ができるのに、それでも仕事の合間にこうして連絡をしてくるのだ。
 
 
(25にもなって公園であんな声あげてたら警察くるわ、なにが初心やねん。そもそも子供の頃知らんやろ)
 
 
“お前に何がわかんねん”
 
 
これは絶対に絶対に言ってはいけない言葉だということは、阿呆な自分でもわかる。
 
これを言えば2人の関係は終わってしまう
 
 
 
眠いし寒いが、舌打ちをして起きた。
 
先月誕生日プレゼントに貰ったカラフルな色のスニーカーが目につく
 
「なんか女っぽくて嫌や」と言って今の今まで履いていなかった靴だ
 
 
裸足で履いたら少し冷たい。
 
やっぱりダサいな、と思ったがなぜか外に出てみたくなった。
 
小学生の頃母親がディスカウントストアで買ってくれた靴は、
黒地に白のマジックテープで、厨房で働くおじさんが履く靴に似ていた。
 
このカラフルなスニーカーは若者っぽいし、あんなに安くもない。
 
 
 
僕は少し離れた本屋まで歩いた。
 
足が疲れるまで立ち読みをするとまた歩いた。
 
 
暮れ始めたグラデーションを横目に歩き続ける。
 
 
ずいぶんと離れた場所まで辿り着くと、
あんなにも晴れていた空が泣き出し、頬をかすめた。
 
 
彼女の「外にでないともったいないよ」のせいだとまた腹が立ってきたが、一番癪に触るのは彼女から貰ったスニーカーが濡れてしまうことだった。
 
 
雨は激しくなるいっぽうで、靴をパーカーの中に隠し両手でお腹を包むようにして裸足で走った。
 
この複雑な痛みはなんなのだろう。
 
 
 
ずぶ濡れで家に帰ると
笑顔で「おかえり」と言い、慌ててタオルを取りにいった。
 
 
どこに行っていたかは多分聞いてこない。
 
 
一緒にご飯を食べて、また同僚の美樹ちゃんの話をして眠るのだろう。
 
 
 
もし彼女が突然雨になってしまったら、僕は晴れになれる術を何も持ち合わせていない。
 
 
 

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