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Story

切り詰める

 
 
昨日前髪を切った。
 
その揃った髪の毛を見つめる彼の睫毛があまりにも美しくて、私のことなんかどうでもよくなる。
 
今日という朝。
 
太陽の光を浴びた睫毛の神々しさは、光合成をしているかのよう。
 
ついさっき初めて会った彼と電車に揺られ、お互いがお互いの何かを見ている。
 
馴染みのない他校の制服だ。
 
彼はポケットに手を突っ込み扉にもたれると、昨日までの私を知っている素振りをした。 
 
そして黙々と私の前髪を眺めた。
 
先に目を逸らしたのは私だった。
 
それから初めて、堰を切ったかのように鼓動が暴れだした。
 
 
すっと目を瞑る。
 
 
あなたは白の開襟シャツを。
私は少しだけ奮発したワンピースを着て海へ向かっているの。
 
2人にしか聞こえない距離で
あなたのなんでもない話を聞きながら。
 
私は彼と、小さな犬を飼ってみたい。
だけどあなたの眼差しは私だけのものであって欲しいのです。
 
彼は「君がしたいことは僕のしたいことだよ。」と呟く。
 
その横顔が見たくなり、そっと目を開けた。
 
 
やはり、やはり、知らない制服。
 
 
あの日から私は何も手につかなくなった
 
手に負えなくなった
 
食事も娯楽も眠りさえも
 
4時50分。
 
青白くなり始めた世界でずっと取り残されている。
 
私はまた一日分老けた。
 
生きる為のあれこれを切り詰めて
 
このまま死ぬのかな…
 
いや、死ねない。
 
 
おはよう、
 
 
今日もちゃんと残酷な朝がやってきましたよ。
 
 
 

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