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Story

彷徨

 
 
自分の後方を象る影が自分を追い越してしまうのではないかと怖くなって歩みをやめた
 
そしたら、影もあゆみをやめた。
 
前方ではカップルがベンチに座って話をしている。
 
12月中旬、22時を体現する服装で。
 
 
「なんかさ、さっきからめっちゃパスタの匂いせえへん?」
 
「パスタってどの味のやねん。」
 
「なに?セモリナ粉?」
 
「そういうこと言うてるんとちゃうねん。ソースの部分の味聞いてんねん」
 
「え! ちょっと…レンくんあっこ人立ってない…?んで、めっちゃこっち見てない?」
 
「どこ?あっこって」
 
「あれあれ、ほら2番目の木のとこやん!なんでわからんの!」
 
「うわ…、ほんまや、全然動かんけどなにあれ」
 
「きもいねんけど」
 
「あんま大きい声でいうな」
 
「移動しよ…、きもこわいし」
 
「…せやな。」
 
 
お互いがシーっと言いながら口元に人差し指をくっつける。
 
マヌケな素振りだ。
 
きもこわい人間が立ち止まるからきもこわいのか
進み続けていても結局きもこわい人間なのか。
 
 
全力で人形のふりをしてみる
 
 
眼球こくり。こくり。
 
明日なんてこなくてもいいと思うのに、仕事帰りヒートテックを買った。
 
明日からも心地よく生きようとしています
 
今日も明日も僕です。
 
影にはまたお世話になるんでしょう?
 
結果論だよ。
 
次の一歩を先に踏み出したのは僕でしょうか影でしょうか。
 
パスタの匂いなんてしません。
 
今の僕は誰の言葉も信じることが出来ません。
 
人の温度ある鼓動を平気で踏み躙り自慢顔、価値観の放棄、「頑張ってね。」、人間性の露呈
 
さっきのアイツらが言うてた2番目の木を人間の眼球で見つめると顔に見える部分が沢山あった。
 
殺すぞ
 
勝手に巻き舌になる
 
歩き続けることをやめたら、歩き始める理由がわからなくなった。
 
先程俺を傷つけたカップルを死にものぐるいで見つけ出し、殺すのにも歩き始めなければならない。
 
背後に控えた影が、言葉が、動き出すのを待っている。
 
わかったから、たかんな、たかんな。
 
 
 

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