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Story

復文

 
 
ラジオネーム
「届け、届かないで」さんへ。
 
 
本日は、ラジオにメールを送っていただきありがとうございます。
 
あなたのおかげで第67回お悩み相談室も充実した回になりました。
 
その場しのぎのアドバイスなんてしてしまった僕を許してください。
 
 
メール内容
 
「私は隣の席の男の子が気になっています。彼はよく教室の天井の穴の数を数え、廊下は端の端を歩くので制服が汚れています。
英語の授業で歌うワムの「Last Christmas」は一切歌わず、不意にオアシスの「Don’t Look Back in Anger」を口ずさんだりします。
彼は誰よりも声が低く、授業であてられる度にクスクスと誰かに笑われます。
 
そんな彼は始業式の日、私の席に座っていました。
「ごめん。間違えてない?」と聞くと「あっ、すいません」と白いハンカチで私の椅子を念入りに拭き始めました。
「そんなんせんでええよ。」と言うと「ハンカチきれいなやつやから安心して」と白いハンカチが汚れるまで手を止めませんでした。
私は彼のことを汚いだなんて思ったことはありません。
 
彼はいつも何かに怯えているようで、なぜか悔しいです。
 
放課後、近所の公園で彼を見かけました。
滑り台の上で体育座りをして泣いていました。制服のままでした。
弱音を吐けるのはこの場所しかないのかと思うと、形のない何かに対して怒りの感情が込み上げてきました。
私はずっと傍観者です。
 
今日の夜空には変な形の雲があって、
雲が月に照らされることで幻想的な景色になっていることを教えたいのですが、伝えるすべがありません。
この世の中は満たされないことばっかり。明日は遠いようで、今日の続きでもあります。彼に笑ってほしいです。」
 
 
生放送が終わり、何度も何度も読み返しました。
 
初見で気づいていたので、それは確認の作業でした。
 
ラジオ局をでて、空を見ました。
 
こっちはどんより曇っています。
 
あなたの所からは今日もみえるのかな。
 
あの時僕は、あのままずっと公園にいたんです。
だから空の雲みていました。
 
正直に言います。
 
僕はあの日のままです
 
でも、つらくなったらラストクリスマスを聴きます。
 
シーズンや歌詞は気にしません。
 
その歌声は、高くて綺麗なあなたの声で再生されます。
 
あなたの言う通り、”明日”は新たな壁をこえるのではなく、地続きの道を進むことなのかもしれません。
 
僕は何度も何度も過去のあなたに救われていたのではなく、あなたに救われていたのです。
 
 
ありがとう。
 
 
こんなことしか言えなくて、ごめんなさい。
 
もし、どこかで会えたならあなたの話が聞きたいです。
 
 
P.S.
ワム!ってビックリマークないほうがしっくりくると思いませんか?
あなたが送ってくれたメールには!がなくて少し安心しました。
 
現ラジオ屋、元隣の席の男より。
 
 
 

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