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Story

一癖

 
 
 
あの日の恩師が教師をクビになったという噂が私のもとへ辿り着いた。
 
 
深夜、学校のパソコンルームに忍び込み、キーボードのDeleteキーを40個盗んで帰ったらしい。
 
 
そして翌朝、その40個をスーツに貼りつけて出勤してきた為、一瞬でバレたという経緯だ。
 
 
一時間目と二時間目の間に呼び出され、
 
20歳年下のサッカー部顧問から脅迫同様の尋問を受けた53歳の恩師は「正しい事は正しくない。」と子供のように泣きながら言った。
 
 
 恩師になにがあったのかはわからない。
 
 
 
「佐藤が気になるから行ってみてってゆうてたラーメン屋行ってきたで。めっちゃ人気やねんなぁ。なんでか嬉しくてな、食べてる間中、勝手に笑ってしもうてて、変な人がおると思われた、多分。んでな、店出た後夜風がきもちくてな、遠回りして駅まで歩いててん。そしたらラーメン屋にメガネ忘れてきたことに気付いて…取りに行くか迷ってんけどな、さっきまで俺の大事にしてたメガネが雑に捨てられてたらどうしようと思ったら取りに行かれへんくて…このザマや。メガネなかったらほとんど見えへんのにな、」
 
 
「美味しかった、でええやん。
ってか、メガネメガネ!ついてったげるから取りに行くよ。放課後。」
 
 
「悪いなぁ。」
 
 
 
恩師とのいつかの会話。
 
事件の日を境に、サッカー部の顧問は一躍ヒーローになり、
恩師の噂はあることないこと沢山流れた。
 
 
“あいつは犯罪を犯しそうな目をしていた。”
 
だれかがそう言った
 
 
ヒーローは最近スーツではなくジャージで出勤するようになった
 
在学中の妹が餅を食べながら言った
 
 
 
誰一人として彼を擁護しようとはせず、その類の声はひとつもあがらなかった
 
 
私を含め。
 
 
私は恩師のいいところをいっぱい知っている
 
 
みんな、
 
 
みんな
 
 
鈍色になれ
 
 
みんな
 
 
みいんな
 
 
 
 
 

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