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Story

天秤。

またか
 
 
「あれ、自転車は?」
 
「あるやん。」
 
「あるけど」
 
「なに?」
 
「いやほら、ポリに止められたらめんどくさいやん?」
「ハハハ」
「それにお互いがチャリ乗ったほうがイオンまで早く着くやん?すーってな。」
 
「今日ママが使ってるし」
 
「そうなんか」
「ごめんごめん、ほな行こか。」
 
「…」
 
「ん?」
 
「あのさー」
「なんかもう行く気うせた」
 
「あれ、、買わなあかんもんある言うてたやん。」
「暗くなる前にいこうや」
 
「別に絶対今日買わなあかんもんでもないし」
 
「そっか」
「でもさ、せっかくやしさっ」
 
「もうええって…」
「自分が一緒に乗りたくない言うたんやろ?」
「それでええやん」
「美香は帰ってしなあかん事いっぱいあるから」
 
「なんでそうなんねや」
「あ、んじゃ、二人であっこ行くのは?」
「あのー、あれあれ。美香がお母さんと喧嘩してプチ家出した時にさ、歩いた河川敷あるやん?」
「すぐ側やしさ。いってみーひん?」
「川やったら二人乗りしても文句言うやつおらんやろ」
 
「そんなことしてる暇ないねんけど」
「別に二人乗りがしたいわけじゃないし」
「この時期に川の側は寒いし」
 
「…そういえば、あれ夏やったなぁ」
「あの時は歩いて行ったから遠く感じたけど、まあでも美香と喋ってたからなんやかんや言うて距離とかよーわからんかった気もするんやけどなぁ」
「自転車で行ったら案外めっちゃ近くにあったりしてな。二人で腰かけたあの不細工な石のブロック。」
「野球部の佐倉の顔にそっくりやな言うて。」
 
「…」
 
「…」
 
「…」
 
「…」
 
「さむ。なにこの無駄な時間。」
「今何時?」
 
「ごめん、わからん」
 
「多分そろそろママ帰ってくるし、いくわ。」
「やらなあかんこともあるし」
 
「…」
 
「なんかさぁ女みたいやな」
「せっかく時間作って楽しみにしてたのに」
「警察に止められるからって…ださ」
 
「…」
 
「なんでなんも言わへんの?」
 
「…」
 
「そういうところやろ…」
「買い物は来週一人で行ってくるから」
「ほなね」
 
「…」
「寒いから風邪ひかんようにな」
 
 
 
いなくなってから言ってみた。
 
財布には146円しか入ってなかった。
これでイオンはきつかったから、ちょっと救われたけどずっとどこかが痛む。痛い。
 
 
俺と美香は触れる空気が違うと思う。
息の吸い方も箸の使い方も第一声の選び方も口角のあげかたも一秒の感じ方も。
そんなん違うくて当たり前やろって言われるかもしれへんけど
それだけで片付けられる単純な話じゃないねん。
 
 
空気悪くしてごめんな。
昨日後輪のパンク修理したところやねん
ずっと変な音してたしな。
結構すんねん。
お金な。
 
わざわざ警察に止められてさ、
いろいろ聞かれるのストレスやねん
美香は黙りこくるし
俺は警察のおっちゃんの機嫌とってさ
これこそ無駄な時間やねん
美香の言葉をかりるならな
 
真面目すぎるって?
おもんないって?
 
これが今の俺やねん
 
 
中学生の恋愛の在り方とは
 
散歩じゃだめですか?
手紙だけじゃ嬉しくはないですか?
 
美香は俺のどこが好きなんやろう?
俺が美香を好きやから?
 
 
美香が帰ってから、あたりは一気に暗くなった。
時計どこにもないな
玉ねぎを炒めた匂いがどこかから漏れ出ているんやけど
 
 
さて、うちに帰ろう
 
 
俺はまだ大丈夫。
顔をあげてついた、ため息は地面を這って彷徨うようなものじゃなく、
雲になるだけなんやし。
 
もう少し
もうすこしだけ
 
 
好きに頼ろう。