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拭う

 
 
他を羨んでは
まどろみの中にすいこまれおちてゆく感覚になった。
 
せめてもの抵抗と
唾を空に向かって吐いた。
 
唾は重力に従順で自分の肩をかすめた
 
先程まで自分の体の一部だった粘液。
それは汚らわしいものに変わってしまい、身体のどこかで拭うこともできなかった。
 
 
日差しが刺す日中。
 
急な勾配を転がる、生命の象徴とも言えるほど黄色い檸檬。
 
私はその檸檬が自由なものなのか誰のものなのかわからぬまま、なぜか追いかけ拾おうとする。
 
拾うことがこの世界では道義なのだと。
 
幾度も手を伸ばしてはすり抜ける檸檬を、疎ましく思うことなく。
 
その必死さがいけなかったのかもしれない。
 
拾えた時には辺りは真っ暗になっていて、檸檬の色もわからなくなってしまっていた。
 
あれだけ魅力的だった檸檬が今は重たくさえ感じる。
 
無表情な喪失感と疲労を抱えた私は、そうして立ち尽くしてしまうのだ。
 
 
 

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